琴座 惑星状星雲M57と複連星
七夕(たなばた)
今日は新暦の七夕ですが、ここ京都はあいにくの雨。でも、コロナ禍で各地の七夕まつりは自粛でしょうね。
もともと、新暦7月7日は、まだ梅雨前線の影響が残っていることが多いですし、今年はたまたま新月に近いですが、月が明るいと、地方でも天の川が見えにくいです。
地方では、月遅れの8月7日に七夕の行事をされるところが多いですが、やはり旧暦の7月7日に行われていた行事ですから、そのあたりが条件としては一番良くなります。
今年は8月14日が旧暦の七夕。だいぶ先ですが、東京は、8月22日まで緊急事態宣言に入るようなので、このまま自粛ムードが続くかも知れませんね。
こちらは、アプリ「iステラ」で描いた新暦7月7日の星空です。これから次第に立ち上がってくる天の川銀河も、8時過ぎくらいでは、まだ東の空低く、北天に近い織女星はよいのですが、牽牛星はまだまだ高度が物足りないですね。
試しに、カレンダーを今年の旧暦七夕の8月14日に設定してその頃の星空を描いてみました。5週間後となりますが、同じ時間でもだいぶ高度が上がります。琴座はもうほぼ天頂付近にありますね。
七夕伝説についての解説は、たくさんありますが、こちらは、国立天文台の「よくある質問」のページから。
いかにも国立天文台らしく?、織女星と牽牛星は14.4光年離れているので、1夜どころか、年に1度も会うことはできません、というのがオチになっていますけど。(笑)
ところで、七夕(たなばた)というのは、いかにも当て字っぽいですよね。
Wikipediaの「七夕」の解説によると、もともとは、中国で太陰太陽暦の7月7日に乞巧奠(きこうでん)という針仕事の上達を祈った儀式が行われていて、南北朝時代ごろに、これが織女・牽牛伝説と合わさって、現在の七夕のストーリーが出来ていったようです。
日本に伝わったのは奈良時代、一般に広まったのは江戸時代ということです。
で、なぜ七夕を「たなばた」と読むのかですが、日本には、もともと棚機津女(たなばたつめ)の伝説というのがあって、七夕に「たなばた」という読みをあてたという説明が一般的ですが、はっきりしたことはわからないようですね。
棚機津女(たなばたつめ)の伝説はともかく、日本に古く「タナバタ(棚機)」という特別な女性の織り手がいて、日本の「タナバタツメ(棚機つ女)」という布を織る女性と、中国伝来の織女という布を織る女性が重なり、「タナバタツメ」「タナバタ」という大和言葉に「七夕」という漢語の表記が当てはめられた、ということは言えそうです。
キトラ古墳壁画
なかなか本題に入れませんが、これを書きながら、ふと去年だったか、愛娘のランドセルを買いに奈良県の明日香村に行ったとき、ふらっと立ち寄った明日香村の古墳の資料館で、確か昔の星図のようなものを写真に撮ったような気がして、探してみたら、ありました〜。こういう撮影日が曖昧なときは、Googleフォトの地図検索が助かります。
じゃじゃん。
写真のちょうど中央に「織女」の文字と「<」の形の星座が描かれています。これを中国星座では「織女三星」というらしいです。
それから、「織女」から真っ直ぐ下がったところに、「河鼓(かこ)」の文字と3つの星を繋いだ星座が見えますが、こちらは「河鼓三星」。
聞き慣れない名前ですが、七夕伝説が広まるにつれて、現在の山羊座付近の別の星座に割り当てられていた「牽牛」という名前が、この星座に割り当てられるようになったそうです。ややこしい。
ちなみに、このキトラ古墳の古星図は、昨年「日本天文遺産」に認定されたそうですよ。
現代の星図のルーツ
古星図ついでに、もうひとつ。
最近、メソポタミア以前の古星図に興味が出てきて、これまで、今日に伝わる星図はギリシャ神話にそのルーツにもつと思っていたのですが(まあ、だいたいそうなのですが)、当然、ギリシャ文明以前にも、天文学は営々と積み重ねられていたわけで、古代エジプトやメソポタミア時代に、星図がどのように描かれてきたか、いろいろな研究がなされていて、興味深いです。
鷲座を思わせる「Eagle & Dead Man(鷲と死者)」が見られますが、琴座のところには「She Goat(雌ヤギ)」が、白鳥座の付近には、「Panther(パンサー)」が描かれています。She Goat の星座絵は飼い主でしょうか。ちょうど椅子の部分が現在の琴座の平行四辺形の部分でしょう。Pantherは猛獣ですが、羽根があります。これは白鳥座の羽根の部分に継承されたようです。
次は、古代ギリシャの星図をアラビア風に描きなおしたもの、ということです。これはほぼ今日に伝わる星座の原型となっています。
琴座(Lyra)のところが亀の星座絵になっていますが、これはもともとリラという楽器を亀の甲羅に弦を張ってつくったという伝説からきているのでしょう。鷲(Aquila)の足元に描かれているのは矢座(Sagitta)で、これも今日に伝わっていますね。
まあ、一見して、古代ギリシャの星図が、先行する時代の天文学の成果の上に築かれたということは、理解できます。『星図の起源』おすすめですよ〜。
惑星状星雲 M57
では、いよいよ今日のお題。琴座の惑星状星雲M57と複連星です。
こちらは、現代の星座の琴座です。
琴座の星座絵ですが、平行四辺形の部分に「リラ(琴)」が描かれているのはよいのですが、何故「鷲」のイメージなのかなと一瞬思いましたが、鷲といえば、織女星=ベガ(Vega)の名前の由来ともなった、ベガを頂点とする正三角形が、アラビア語で「落ちる鷲(アン=ナスル・アル=ワーキ、an-nasr al-wāqi )」と呼ばれていたため、たぶんその名残りなんでしょうね。
さて、M57ですが、こちらはメシエ天体ですが、惑星状星雲なので、もともと双眼鏡での観測には適していないということです。
望遠鏡も、いろいろ勉強してみているのですが、まだよく分からないので、ここはもう少し双眼鏡でがまんして、いろいろな天体を知ることから始めたいと思います。
M57は別名「環状星雲」「リング星雲」と呼ばれて親しまれています。
見つけ方は比較的簡単で、琴座のβ(ベータ)星とγ(ガンマ)星をむすぶ線の間の β 星寄りを探すとすぐに見つかるらしいのですが、等級が暗いので、私の双眼鏡では、見えないかも知れません。
まあ、一応、覗いてみたいのですが、早く梅雨が明けないかな〜。
ちなみにスラファトはアラビア語で「亀」を意味するそうで、亀の甲羅に弦を張って琴を作ったことに由来します。シェリアクはアラビア語で「琴」を意味する al-salbāq に由来するとのこと。
で、こちらがM57です。
これはハッブル宇宙望遠鏡の公開画像なので、音楽で言えば、ウィーンフィルで「美しき青きドナウ」を聴くようなものですよね〜。
でも、アマチュア天文家でも、美しいM57の写真を撮られている方もおられますね。すごいな。私もいつか先輩方のような天体写真を撮ってみたいです。プロの一流の演奏を聴くのも楽しいですが、自分で楽器を奏でてみるのも、それはそれで、いいものです。
アストロアーツさんの解説によれば、口径20センチくらいの望遠鏡でも、かなり楽しめそうですね。私の目標は、25センチ以上なので、まずまずの写真が撮れるかも知れません。
まあ、まずは勉強しないと。
M57は、地球からの距離、2300光年。視直径1'くらいで、だいたい金星と同じですが、等級が8.8等なので、「惑星状」といっても全く別物ですね。
星雲の大きさは、2.6光年くらいで、これは太陽系の大きさを仮に100天文単位(太陽系辺境サイズ)とすると、およそ1640倍のサイズとなります。(1光年を63241天文単位として計算しています)
数字の話で恐縮ですが、2.6光年というのは、上記の上坂さんが撮影されたM57に映し出されている周辺のガスの広がりも含めた大きさです。これで視直径3'8くらいで見積もられていると思います。
実際はここまで映し出すのは大変なので、明るいリングの部分だけだと、0.7光年くらいですね。それでも太陽系のおよそ440倍になります。(tan1'4×2300光年=0.7光年)
年齢は、7005歳ということなので、まさに古代エジプト、メソポタミアの頃に、超新星爆発したのですね。星雲の膨張速度がわかれば、年齢は計算できそうですが、超新星の記録が残っていると、爆発の時期を正確に特定できるでしょう。
7005歳というのが、何となく爆発の観測記録があるかのような数字ですけど、ネット上にあまり記述がないので、そのような記録はまだ発見されていないのでしょうか。
琴座 ε 星:複連星
琴座 α(アルファ)星のベガ、ε(イプシロン)星、ζ(ゼータ)星でつくる正三角形が「落ちる鷲」と呼ばれ、α星ベガの名前の由来となってるというお話でしたが、この ε 星、ζ 星はともに二重星で、さらに ε 星はめずらしい複連星なので、人気があるようです。
永らく天体観測から遠ざかっていたので、何年か前、伊吹山の天文観望会に出かけたときは、恒星に望遠鏡を向けていると、「恒星を見ても仕方ないのに」なんて思ったりしたことをときどき思い出して、恥ずかしくなります。(汗)
恒星は望遠鏡で覗いても、基本的に点光源にしか見えません。しかし、その輝きは色や明るさも様々、何より、その配置は天の川銀河の構造そのものを内側から覗いているわけです。つまり、夜空に輝く恒星のすべては、太陽系の所属する銀河で生まれた兄弟星。そう思うと、星々の一つ一つの輝きに、また以前と違った親しみのようなものを感じるようになりました。
星の一生を知ることは、宇宙の歴史に触れること、さまざまな元素を生み出し、生命を誕生させた悠久の宇宙の営みに気づくこと。何事もそうだと思いますが、学ぶことを通じて、だんだんと、それまで見えていなかった物事の様々な面が見えてくるものですよね。
さて、これは琴座の「織女三星」を拡大したものです。α星がベガ。織女星です。
で、ε 星の方は、この星図をみても、すでに二重星だということは、分かりますね。ただ、この二重星が真の連星かどうかは、まだ分かっていないようです。
この2つの星(それぞれがまた連星なのですが)の実際の距離は、かなり離れていて、仮に真の連星なら、その公転周期は数十万年になると考えられています。
ε 星は、左側をε1星、右側をε2星と呼び、地球からの距離は、160光年くらい。前述のように、ε1星とε2星が真の連星かどうかはまだわかっていませんが、ε1のAB、それからε2のCDは、各々真の連星です。
ε1のABは、およそ120天文単位の距離で、公転周期1700〜1800年。ε2のCDの方は、およそ距離110天文単位で、公転周期720年と見積もられています。
こちらは、ζ 星。これは見かけ上の二重星でした。ζ1 は地球からの距離154光年、ζ2は150光年の星です。
琴座のあたりも天の川銀河の中心に近く、実は太陽系はこちらの方向に向けて秒速19キロで移動しているそうです。
太陽系の進行方向を大陽向点といいますが、その付近にはちょうどベガがあって、ベガはまた、太陽系の方向に向けて移動しているので、今から32万5千年後には、太陽系はベガと行き会うことになるとか。
その時は、ベガが北天において、現在のシリウスよりまばゆく、青白い光を放っていることでしょうね。
恒星(天球上で動かない)と言いますが、数万年、いや数千年であっても、時を経るにしたがって、夜空の様子もまた違った趣になるようです。そんなことを思いながら、星空を眺めてみるのも、また楽しいですね。
それでは、皆さまもどうぞよい週末をお過ごしください。