星に願いを

〜かんじんなことは、目に見えないんだよ。心で見なくちゃ〜

どうして季節によって天の川銀河の見え方が変わるのか

今年は記録的に梅雨入りが早かったので、なかなか星空が見られませんね。

こういう時は、何かお勉強してみようと思い、考えてみたのですが、そういえば一度ゆっくり考えてみたいと思っていたことがありました。

f:id:p-in:20210525025436j:plain
立ち上がる天の川(Wikipedia

それは、天の川の見え方が、季節毎にどうして変わるのか、ということです。どうして、というと地球が公転しているから、とは思うのですが、どうもはっきり分かったような気がしないのです。

分かっていることを書いてみると、

  • 太陽系は天の川銀河の一員である
  • 天の川銀河はレンズ状の形をしている
  • そのレンズ状の銀河を内側から眺めているので天の川が帯状に見えている
  • 太陽系は天の川銀河の中心から2万5千光年くらい離れたところにあるので、中心方向は明るく、反対方向は暗く見える

こんなところですかね。

都心では、光害で天の川はなかなか見えないので、今まで、天の川がどのように見えているか、よく知らなかったのですが、ネットでよく「夏になると天の川が立ち上がってくる」などと書かれているので、「そうなんだ」と思いつつ、それ以上自分で調べたことがなかったのです。

 

ところで、先日、天体望遠鏡が欲しいなと思って、いろいろ調べているうちに、「ステラナビゲータ」という天文シミュレーションソフトが目について、買ってみたのですが、これがなかなか素晴らしい。

 

 

いろいろさわってみると、その季節毎の天の川のイメージが、プラネタリウムのように再現できることに感動しました。

それで、これなら、季節毎の天の川の見え方を確認しつつ、地球の公転によってどうして(どのように)天の川銀河の見え方が変わっていくのか、頭の中で整理できるような気がしたんですよね。

といいつつ、生来、3次元の認識に弱い私。いろいろ手を動かして、理解のとっかかりを探ってみたものの、なかなかピンときません。

まず、最初にやってみたのが、「全天」の星図づくりです。つまり、地球は天の川銀河の中にあるわけですから、全天星図で天の川がどこに位置づいているのか、確認したかったのです。

 

ちなみに、これはステラナビゲータではありません。イラストレーターというデザインソフト用の星図作成スクリプトを開発された方がいて、その方のサイトで、星図イラストレーターデータをダウンロードできたので、それを利用させて頂いて、作成したものです。

 

f:id:p-in:20210524231231j:plain

最初に作成した全天星図

分かりにくいかも知れませんが、ちょうど真ん中で円が接している部分で、右半分を左半分の下側にたたむイメージの全天星図となっています。

青い線が銀河面、黄色い線が黄道、赤い線が天の赤道を表しています。(以後、だいたいそういう色分けにしています)

ステラナビゲータで例えば天球儀を書き出すと、以下の様な美しい天の川銀河のイメージを含む星図が得られたり、とても楽しいのですが、この作業をやり始めた頃は、まだこのソフトを買っていなかったので、まあコツコツと手を動かしてみました。

f:id:p-in:20210528213320j:plain

ステラナビゲータ11の天球儀でみる天の川銀河

結果としては、星図を自作してみて良かったかなと思うのですが、やはり手を動かすと考えますからね。地球の自転によって、星空が見える範囲がどのように変わっていくのか、春分の日から始めて、12か月分の星図をつくってみました。

 

f:id:p-in:20210524231231j:plainf:id:p-in:20210524235332j:plain

f:id:p-in:20210525010809j:plainf:id:p-in:20210525010842j:plain

 

天の赤道黄道、銀河面の位置関係は、皆さんがよく引用されているサイト「天文学辞典」などを参照させて頂いて、四苦八苦、作図していったのですが、確かに、5月くらいには、ここ北緯35度では、21時頃、天の川はちょうど地平線と重なるようになって、見えないんですね。一方、天頂には天の川銀河の北極があって、レンズ状の厚みの薄い方向を見ているので、星々の数が少ないです。

 

 

8月になると、地球の公転で星空も90度移動するので、例えばたまに夜9時頃に夜空を見上げたりすると、見えている星座がガラッと変わってしまいますね。90度というのは、地球の自転による日周運動に置き換えると、6時間分の変化となるので、満月が出てから南中するまでと考えると、変化の大きさがわかります。

5月に地平線ギリギリにあった天の川も今は天頂まで登ってきています。また、この季節はちょうど夜空に天の川銀河の中心方向が見えてくるので、南の空のいて座、さそり座あたりを中心に、光害の少ない地域では、ひときわ明るい天の川を望めるでしょう。

季節は巡り、11月の夜空では、天の川は次第に北の空に傾いて、南の空には銀河の南極方向が見えてきます。5月には天頂に銀河の北極があったので、レンズ状の天の川銀河を想像すると、レンズの厚みの薄い方向のちょうど反対側に回った感じです。ちょっとダイナミックな感じがしてきましたね。

これから半年間は、天の川銀河の中心方向からずれるので、比較的夜空に星の少ない季節となります。その分、太陽系にほど近い明るい恒星が主役に躍り出て、空も澄んでくるので、星座観測には適した時期となります。冬の星座の代表格、オリオン座も東の空から登ってきていますね。

2月になると、オリオン座も子午線を過ぎ、天の川は再び、北から南まで大きな円を描きます。ちょうど天の川銀河の中心から反対方向にあたるので、星々の厚みというのはないですが、全体としてはバランスの良い、星空の美しい季節となります。

 

まあ、何となく、季節毎の天の川銀河の見え方の変化がつかめたような気もするのですが、もう少し、天の赤道黄道、銀河面の位置関係を整理してみたいと思います。

 

ネットで探してみると、天の赤道黄道の関係を表す図は割とあるのですが、銀河面を加えた図というのがなかなか見つからないので、頭の体操と思って、天の赤道黄道、銀河面の位置関係を作図してみました。私は星座名が入らないと天球をイメージしにくいので、大雑把に星座も書き込んでみました。

f:id:p-in:20210527011218j:plain

天の赤道黄道・銀河面と5月の星空

赤が天の赤道、黄色が黄道、青が銀河面です。ここでは、天の赤道を水平面として、地軸を垂直にして書いています。天球の中心は地球で、私は地球の上に立っています。

天球に少し色をつけた半球のエリアがありますが、これは私から見える夜空のイメージです。5月の21時頃の星空です。

夜空の左上の方に「天頂」がありますが、これが私の頭上の方向です。ここは北緯35度なので、天頂は天の赤道から35度北に傾いています。地平線は天頂の方向から90度の方向なので、私から見た地平線は、図の「北緯35°の地平線」のラインとなります。

ここで、図で見るように、私の見ている地平線と銀河面が、ほぼ重なり合っているのがわかるでしょうか。銀河面と天の赤道のなす角度は、62.6度らしいので、天の北極からいうと、90-62.6=27.4度です。私の地平面の天の北極との角度が35度ですから、かなり近いですよね。つまり、たまたま銀河面と天の北極のなす角度が、私の緯度の天の北極の高度と近いので、この時ちょうど、銀河面が地平線と重なったのですね。

同様に、季節毎に見える星空の範囲を考えてみました。

f:id:p-in:20210528182309j:plain

北緯35度から見える季節毎の星空と天の川銀河

8月になると星空(天球に少し色をつけた半球のエリアです)がだいぶ手前の方向に回転してきました。これは、太陽が黄道を反時計回りに移動するにつれて、夜空の見える方向も反時計回りに回転するためですが、これから更に夜が更けるにつれて、日周運動のために、天球が1時間に15度、(天の北極を中心に)反時計回りに回転していくので、夜半には天の川銀河が地平線に対して直立して、北から南まで大きな弧を描くわけですね。

11月には、星空はさらに90度移動し、天の川銀河は、天の北極側に横たわり、日周運動とともに、天の北極を中心に、ちょうど相撲の弓取り式の弓のような感じで、クルッとひっくり返ります。日没後には、銀河の南極側が見えていたのに、明け方には銀河の北極側が見えてきます。ちょうど茅の輪くぐりをしている感じかな。

2月の星空は、ちょうど銀河中心方向と反対側なので、天の川銀河も少しさみしい感じです。次第にまた銀河面が北緯35度の地平面に近づいてくるので、日周運動によって、大縄飛びしているような感じになります。

 

太陽の黄道上の運行と黄道12星座の関係も整理してみました。太陽と反対側の星座が見えているので、例えば、私は牡牛座ですが、誕生月の頃にはおうし座は見えません。

f:id:p-in:20210527220737j:plain

太陽の黄道上の運行と黄道12星座

 

では、今度は天球から離れて、地球の公転運動と季節毎の天の赤道黄道天の川銀河の関係をイメージしてみたいと思います。星図はステラナビゲータで作成しています。時刻はすべて深夜0時にセット。春分の日を起点に、3ヶ月毎に星図を出力しました。こうした操作は、すべてマウスクリックで直感的にできてしまいます。わかりやすい! 観測点の緯度も簡単に設定出来るので、ついでに赤道(緯度0度)からみた星図も作成してみました。

赤道からみた星図は、天の赤道が常に一定なので、地球の公転面(黄道)と天の川銀河の位置関係がわかりやすくなりますね。銀河中心方向の星空で天の川銀河の傾きが逆だなと思ったら、地球から銀河中心方向を見ているので、鏡像になっているんですね。

f:id:p-in:20210528115101j:plain

地球の公転運動と季節毎の天の赤道黄道天の川銀河

こうしてみると、地球の公転運動で、天の赤道黄道天の川銀河の位置関係がどうして変化していくかが、よく分かりました。やはり、赤道(北緯0度)からみた星図のイメージが一番シンプルで、理解しやすいです。6月頃の星図が鏡像なので、一瞬考えてしまいますが。(笑)

大雑把にいうと、春分の頃は銀河北極の方向が見えていて、夏至に近づくと銀河中心の方向を向いて、銀河面が立ち上がり、秋分の頃には銀河南極の方向で、冬至には銀河中心と反対方向で、再び銀河面が立ち上がってくる、そんな感じですね。

 

f:id:p-in:20210528115119j:plain

 


さて、長くなってきました。最後に、銀河面と太陽系の位置関係を少しだけ。次の図は、銀河北極の方向から銀河中心を見たイメージになっています。北黄極の銀緯29.8度というのは、銀河面に対して黄道面が 90-29.8=60.2度ほど傾いているという意味ですね。また、銀河面と黄道面の交わる線は、正確には銀河中心から 90-96.4=6.4度ほどズレているようです。まあ、しかし天の川銀河は厚みがあるので、銀河面と黄道面の交線はほぼ銀河中心方向を向いていると考えても良いでしょう。

 

f:id:p-in:20210525013014j:plain
黄道座標系|天文学辞典より

 

下図は、天の川銀河を上から見た想像図ということです。太陽系は銀河中心から2万5000光年ほど離れたところに位置し、オリオン腕という恒星の集団の一員なのだそうです。

上でみたように、銀河面に対して、太陽系は60.2度の傾いていますが、黄道面は銀河面に対して直交しています。つまり、黄道面と銀河面の交わる線がほぼ銀河中心の方向を向いている、ということです。

そのため、私たちは、地球の公転によって、北半球の夏には銀河中心側を、半年後にはその反対側をと、ダイナミックに変化する星空を観察しているわけですね。

ちなみに、太陽系は銀河面上をヘルクレス座の方向に進んでいるそうです。その方向を、太陽向点と言うんですね。

 

f:id:p-in:20210530030232j:plain



 

天の川銀河の見え方について、調べてみようと思って、2週間くらい経ったでしょうか。ネットでいろいろ検索していたら、だいぶ前に、詳しく調べて記事にされた方がおられました。

こちらの方の記事の方が、きちんとつめて、詳しく書かれているようですので、もしご覧になっていないようでしたら、のぞいてみてくださいね。

 

 

 

最近の観測技術の進歩で、系外惑星の発見が驚異的に進んで、地球のような星はむしろ平均的な存在ではないかと、考えられるようになっているようです。

ハビタブルな宇宙——。量子宇宙論も面白いですが、こちらも妙にリアリティがあって興味深いテーマだなと思うようになりました。

本当に「未知との遭遇」があるかも知れない、そう思って天の川銀河を眺めるのも、また楽しいじゃないですか。 

 

 

梅雨が明けると、また天の川が立ち上がってくる季節ですね。

少し郊外に出かけて行って、天の川銀河を眺めてみようかな。